松江地方裁判所 昭和49年(ワ)69号 判決 1976年7月20日
六五号事件原告兼六九号、二二号各事件被告 宗教法人世界救世教隆光教会
右代表者清算人 杉谷正雄
六九号、二二号各事件被告 宗教法人世界救世教
右代表者代表役員 川合尚行
右両名訴訟代理人弁護士 片山義雄
同 阪岡誠
同 野島幹郎
同 沢井勉
同 平山長
同 服部光行
六五号事件被告兼六九号、二二号各事件原告 宗教法人みろく神教
右代表者代表役員 石坂隆明
六五号事件被告 石坂隆明
右両名訴訟代理人弁護士 中根寿雄
同 田村恭久
同 矢田正一
以下当事者の呼称については
宗教法人世界救世教隆光教会を原告教会
宗教法人世界救世教を原告教団
宗教法人みろく神教を被告教会
石坂隆明を原告石坂
とし、前二者双方を呼ぶ場合、原告ら或いは原告両名と後二者双方を呼ぶ場合被告ら或いは被告両名とする。
主文
一、原告教会の被告教会および被告石坂に対する各請求を棄却する。
二、原告教会は、被告教会に対し、別紙物件目録(一)ないし(四)記載の物件につき所有権移転登記手続をせよ。
三、原告教団は被告教会に対し、原告教会が前項の登記手続をなすにつき承認せよ。
四、原告両名は、別紙物件目録(一)ないし(四)記載の物件につき、被告教会の占有を立入その他により妨害してはならない。
五、被告教会に対し、原告両名は各自金二〇〇万円、原告教団は金一〇〇万円およびこれらに対するいずれも昭和五一年七月二一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
六、被告教会の原告両名に対するその余の金員請求を棄却する。
七、訴訟費用は全事件を通じ五分し、その四を原告両名の連帯負担とし、その余を被告教会の負担とする。
八、この判決は主文第五項に限り仮に執行することができる。
事実および理由
第一、当事者の申立
一、六五号事件
(一)、被告両名は原告教会に対し、別紙物件目録(二)、(四)記載の建物を明渡せ。
(二)、被告両名は各自原告教会に対し、昭和四九年七月七日から右明渡に至るまで一ヶ月一一万円の割合による金員を支払え。
(三)、訴訟費用は被告両名の負担とする。
(四)、(一)ないし(三)項につき仮執行宣言。
二、六九号事件
(一)、原告教会は被告教会に対し、別紙物件目録(一)ないし(四)記載の物件につき、所有権移転登記手続をせよ。
(二)、原告教団は被告教会に対し、原告教会が前項の登記手続をなすについて承認せよ。
(三)、原告両名は、別紙物件目録(一)ないし(四)記載の物件につき、該物件に立入ったり、その他被告教会の占有を妨害してはならない。
(四)、訴訟費用は原告両名の負担とする。
(五)、(三)項につき仮執行宣言。
三、二二号事件
(一)、原告両名は各自被告教会に対し三九二万三、一一〇円および内金三四〇万円に対し昭和五〇年三月二日から、内金五二万三、一一〇円に対し昭和五〇年一〇月二日から、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
(二)、原告教団は被告教会に対し、二〇三万九、三九〇円およびこれに対する昭和五〇年一〇月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
(三)、訴訟費用は原告両名の負担とする。
(四)、(一)、(二)項につき仮執行宣言。
第二、争いない事実
一、被告石坂は、もと原告教会の代表役員等の地位にあったところ、原告教会を包括する原告教団によりその地位を解任され、その地位をめぐって原告両名との間に紛争が生じ、広島高等裁判所松江支部昭和四八年(ネ)第一四号仮処分申請控訴事件として係争中、昭和四九年一月二九日同裁判所において和解が成立し、原告教団は右解任処分を撤回し、被告石坂は代表役員等一切の地位を辞任する旨の合意が成立したが、右和解とともに、同日被告石坂と原告両名との間に、原告教会所有にかかる別紙物件目録(一)ないし(四)記載の物件(以下本件土地建物という。)を、原告教会が代金五〇〇万円で被告石坂または同人が指定する第三者すなわち同被告が将来設立する宗教法人に譲渡することとし、原告教会は右譲受人からの請求があり次第いつでも所有権移転登記手続をする旨の契約(以下本件払下契約という。)が覚書の形式で成立した。
二、原告教会規則第二三条によれば、原告教会がその所有財産を処分するについては包括団体である原告教団の承認を必要とする旨定められているところ、原告教団は前記譲渡行為につき、そのころ原告教会にその旨の承認を与えた。
三、その後、被告石坂は宗教法人の設立を進め、昭和四九年四月四日島根県知事に対し「みろく神教」の名称をもって宗教法人設立の認証申請をし、同年七月三日その認証を得たうえ、同月八日被告教会の設立登記を了し、以後被告教会は右の名称により宗教活動をしている。
四、右登記後、被告石坂は本件払下契約所定の第三者に被告教会を指定し、被告両名はその旨同月二六日付内容証明郵便で原告両名に通知し、もって本件土地建物につき、原告教会に対し所有権移転登記手続を、原告教団に対し右移転登記手続に承認を与えるよう、各求めた。
五、被告石坂は、本件払下契約にもとづき、原告教会から、昭和四九年一月二九日別紙物件目録(一)、(二)記載の土地建物の簡易引渡しを、同年二月一七日同目録(三)、(四)記載の土地建物の現実の引渡しを、それぞれ受けて占有を取得し、被告教会は被告石坂から同年七月二六日本件土地建物の引渡しを受けて占有を取得し、被告両名は共同して現にこれを占有している。
六、原告両名は被告石坂に対し、昭和四九年七月五日付翌六日同被告に到達の内容証明郵便をもって、同被告の前記三の行為が本件払下契約上の債務不履行に該るとして本件払下契約を解除する旨の意思表示(以下本件解除意思表示という。)をした。
七、(一)、原告両名は、被告石坂の前記三の行為もしくはこれを理由とする本件解除意思表示を主たる根拠として、それぞれ次の法的手段に訴えた。
(イ)、原告教会
被告両名に対し、本件六五号事件提訴。
(ロ)、原告教団
(a) 被告石坂に対し、当庁昭和四九年(ワ)第五五号宗教活動妨害禁止等請求事件(以下、別件五五号事件という。)提訴。
(b) 被告教会に対し、当庁昭和五〇年(ワ)第八号宗教活動妨害禁止等請求事件(以下、別件八号事件という。)提訴。
(二)、被告教会は、原告両名の本件解除意思表示に対し、それぞれ次の法的手段に訴えた。
(a) 原告両名に対し、後記(b)を本案とする当庁昭和四九年(ヨ)第三八号処分禁止(被申請人は原告教会)、第三九号占有妨害禁止(被申請人は原告両名)各仮処分事件(以下、仮処分事件という。)申請。但し申請人名義はいずれも被告石坂。
(b) 原告両名に対し、本件六九号事件提訴。
(三)、原告両名は本件六九号事件につき本件解除意思表示等を主たる抗弁として主張し、応訴した。
(四)、本件六九号事件は本件六五号事件に、別件八号事件は別件五五号事件に、それぞれ併合されて審理された。
第三、争点≪省略≫
第四、証拠≪省略≫
第五、争点に対する判断
一、本件払下契約の失効(右契約の債務不履行による解除及び錯誤の成否)について。
前示争いない事実と証拠(但し、後記措信しない部分を除く。)を総合すると、以下のとおり認められる(各項末尾かっこ内の証拠は、当該項目の事実認定に供した証拠を示す。)。
(一)、被告石坂は、もと原告教団の理事および教議員であり、かつその被包括宗教法人たる原告教会の代表役員であったところ、原告教団が実現せんとした被包括宗教法人一元化の過程でこれに反対して原告両名との間で紛争を生じ、原告教団から前示各役職についての罷免処分を受けたこと、被告石坂は、右処分の効力を争って松江地方裁判所に地位保全の仮処分を申請したところ、昭和四八年一月二五日これを認容する旨の判決がなされたため、同日直ちに包括団体たる原告よりの離脱を公示し、あわせて単立する宗教法人隆光教会の名称として「メシヤ教」を名乗る旨公告し、またその後まもなく原告に対し包括被包括の関係を廃止する旨を通知したこと(≪証拠省略≫)、
(二)、原告両名は右判決を争って控訴し、広島高等裁判所松江支部昭和四八年(ネ)第一四号仮処分申請控訴事件として係属中、和解の気運が現われたところから、原告らは、昭和四九年一月二六日京都市内において、役員、弁護士を交じえて、対応策を協議し、その席上、原告教団外事対策委員長から、(a)いかなる理由があっても被告石坂が詫びない限り和解はできないこと、(b)被告石坂は原告両名と無縁の者となることとし、これを前提として本件土地建物を被告石坂の更生資金という名目で払下げても良いこと、(c)被告石坂の離脱は認めることができないのは勿論、その際に同人が名乗った「メシヤ教」なる名称も、原告教団が過去に使用したもので、権利主体性を侵害されるから、これが使用は認められないこと、といった基本方針が打ち出され、弁護士もこれを了承して右方針のもとに本件和解に臨んだこと、一方被告石坂においては、前示のとおり既に原告教団に対して離脱通告し、かつ「メシヤ教」なる名称を名乗ることをも公示していたところから、原告らに対し、離脱を承認させることを基本姿勢として本件和解に臨んだこと(≪証拠省略≫)、
(三)、昭和四九年一月二九日広島高等裁判所松江支部において和解が勧試され、当事者間において、前示罷免処分、離脱、本件土地建物の払下等の問題について交渉が持たれた結果、当事者双方は、教祖に対し遺憾の意を表したうえ、原告教団において前示罷免処分を撤回する一方、被告石坂において前示各地位を辞し、原告教団および原告教会から退職金合計金六〇〇万円の支払を受けることを骨子とする合意をみるに至り、その旨の和解調書が作成されたこと、なお、その際原告教会が本件土地建物を払下げる旨の合意も成立したが、右払下の相手方をめぐって、これを被告石坂が将来設立する宗教法人とすべしと主張する被告石坂と、前示和解の基本方針からこれに反対する原告らとの間に意見の喰い違いがみられ、結局、これを被告石坂又は同人が指定する第三者とすることとし、但し右払下条項は和解調書に記載することなく、当事者間で覚書という形式で処理することで合意が成立し、右和解後直ちに当事者間でその旨の覚書が作成されるに至ったこと(≪証拠省略≫)、
(四)、ところで、右払下の相手方についての交渉過程において、被告石坂が将来設立する宗教法人の名称が問題となり、被告石坂代理人から「メシヤ教」を使用しようと思っている旨の発言があったところ、原告ら代理人から右名称は原告教団が過去に使用した名称であること、商標登録申請中であること等の理由を挙げてこれを使用してはならない旨の申入れがなされたため、被告石坂側においてもこれを了承し、「メシヤ教」は使用しない旨確約したこと、なお、右和解ならびに覚書作成の全過程を通じ、名称問題についての議論は以上に止まり、更に原告側から他の具体的名称を特定してこれが使用禁止方を求める等した事実はなく、かつ右名称問題は和解調書は勿論覚書の中にも全く明記されずに終ったこと(≪証拠省略≫)、
(五)、右和解及び本件払下契約締結直後たる前同日夜、被告石坂は、役員、信者、代理人(弁護士)を交じえて役員会を開き、その場において、新しく設立する宗教法人として「みろく神教」なる名称を付する旨明示したところ、役員はじめ、信者は勿論のこと、前示和解ならびに覚書作成に関与していた弁護士らも何等これに異を唱えることなく賛同したこと、そこで、被告石坂はその後同年二月一日付書面を以て、関係人らに対し、勝利奉告祭およびみろく神教創立祭についての案内状を送付するなどしてこれを外部に明示したこと(≪証拠省略≫)、
(六)、ところが、これを知った原告教団側は、同年二月九日付書面で「みろく神教」の名称を原告教団以外で使用すれば問題が生ずるから、使用しないようとの警告を被告石坂に発した。これに対して被告石坂が、その理由の開示を求めたところ、原告教団は、同月一九日付書面で、「老婆心から申し上げたものである」とのみ答え、理由を明らかにせず、ようやく同年五月一日付書面において、初めて、和解の際、原告教団が、商標登録申請済のものは使用しないことで意見が一致し、登録申請済のものを除くよう注意されて、メシヤ教を使用しなくなったという経過から、「みろく神教」も同様、その時の精神からして使用できない旨の理由を挙げ、同時に、「みろく神教」の名で宗教法人を設立すれば、本件土地建物の所有権移転登記手続もしないと警告してきたこと、そして、次いで、同年六月一六日付書面では、右理由に加えて、原告教団の歴史を述べ宗教法人日本五六七教(みろく教)が、原告教団の前身であるからみろく神教という名称は、原告教団と混同しやすい名称であるとの理由をつけ加えるに至ったこと、以上の警告にもかかわらず、被告石坂が、同年七月三日「みろく神教」なる名称で新宗教法人設立の認証を受ける(この認証を受けた点は争いない)や、同月五日、本件解除意思表示をなし、そのなかで、はじめて明確に和解の際の諒解事項の成立を主張したものであること、一方、原告教団は、被告石坂が「みろく神教」なる名称をもって宗教法人設立の認証申請をしていることを知るや、島根県知事に対しても右名称での認証をしないよう要望書を提出したが、その理由とするところも、当初は商標法に牴触するという点であり、その後、前記被告石坂に対する同年五月一日付書面と同様の理由に、変更したこと(≪証拠省略≫)、
(七)、昭和四九年二月一七日、原告教会は、被告石坂に対し本件払下契約に従い別紙目録記載(三)(四)の土地建物を現実に引渡しており(争いない事実である)、この時期には前出(六)で自ら判るとおりみろく神教の名による、被告石坂の宗教活動を原告らが既に了知していたものである。
(八)、なお、原告教団は、昭和四八年九月「五六七教」「三六九教」「みろく教」「弥靱教」「三六九教」「五六七教」「弥靱」「みろく」「五六七」「三六九」につき、各商標登録出願を行っていたところ、本件和解後、被告石坂が「みろく神教」なる名称を外部に公示した直後の昭和四九年二月八日に至り、更に右名称と全く同一の「みろく神教」についての商標登録出願を追加したこと(≪証拠省略≫)、以上のとおり認められる。≪証拠判断省略≫
以上認定事実にもとづき考察するに、原告らにおいて、被告石坂の原告教団からの離脱を否定しかつ同人が原告らと無縁の者となることが、本件和解ならびに本件払下契約の重要かつ相即不離の前提条件と認識していたことは明らかであり、しかも、当時被告石坂が近い将来に新たな宗教法人を設立することが必然のこととして予想され、原告らにおいてもこれを熟知していたことが明かであるから、被告石坂が新たな宗教法人にいかなる名称を使用するかに関しては、原告らとしては重大な関心を抱かざるを得ない事柄であったとみることができ、右事情に加え、当時被告石坂が「メシヤ教」を離脱とともに名乗って原告教団からの離脱を宣言していたところから、これが原告教団の過去に使用した名称で、原告教団と誤認混同を生ずるおそれがあるとの認識のもとに、本件和解に臨む基本方針の一つとして「メシヤ」或いは「メシヤ教」なる名称を使用させないことを打ち出していたこと、その他前示(八)のとおり、従来から原告教団において、「みろく」と呼称される用語等についての商標登録を多数出願してきたことを合わせ考慮すると、原告らにおいては、被告石坂が、およそ原告教団とまぎらわしい名称を使用しないことをも、本件和解ならびに払下契約のための重要かつ不可欠の前提条件と主観的に認識していたことは否定できないところであろう。
しかしながら、前示(三)、(四)にみたとおり、本件和解の全過程を通じ、右名称問題につき、原告らから、「メシヤ」、「メシヤ教」なる名称が、原告教団の過去に使用した名称で商標登録申請中である旨付言してこれを使用しないよう申入れがなされ、被告石坂においてもこれを取り止める旨確約した事実があるほかは、原告らから具体的名称を特定してこれが使用禁止を求めたことがないのは勿論、凡そ原告教団が過去に使用し、これとまぎらわしい名称一般の使用の禁止を求め、或いはこれが使用してはならない縁由を明示した事実もなかったことが明らかである。原告らは、右和解の過程における「過去に使った名称」「商標登録申請中」なる旨の発言およびこれらを含めた本件和解の全過程をとらえ、これをもって、凡そ原告教団と誤認混同を招来する名称一般の使用禁止を表示し、これに対して被告石坂の諒解があったとみるべきであると主張する如くであるが、前示(四)にみたとおり、前出言辞は、被告石坂が離脱に際し既に公示していた「メシヤ教」なる名称使用の許否をめぐる議論のなかで、原告らがこれを禁止せんとする理由付けとして述べられたにすぎないと認められるから、これを以て原告ら主張事実を根拠付けることはできず、また本件全資料によってうかがい得る和解の全過程に照らしても、原告の右主張を認めるに足りない。
以上を要するに、原告らは、被告石坂において、原告教団と誤認混同を招来するような名称を使用しないものと思い込みかつこれを本件和解ならびに本件払下契約の枢要な条件(要因)としていたということができるが、右は単なる動機に止まり、これが本件払下契約上の債務内容をなし、或は被告石坂に対し表示されたものとはいいえないこととなる。原告ら主張の諒解事項という拘束効ある法律行為は存在していないのである。
前示(五)ないし(八)の各事実は、いずれも右にみた結論を裏付けるものと評価することができる。
よって、錯誤による無効および債務不履行による解除を理由として本件払下契約の失効をいう原告の主張は理由がなく、採用できない。
二、叙上の認定説示に前掲争いないところを綜合すれば、原告教会が被告両名に対して本件各建物の明渡ならびに賃料相当損害金の支払を求める請求は失当というべく、同時に、本件払下契約に基き、右払下契約上本件土地建物を取得できる地位を有するに至った第三者といいうる被告教会より原告教会に対する右土地建物についての所有権移転登記手続を求める請求ならびに被告教会より原告教団に対する原告教会規則所定の同教会帰属財産たる右物件を処分(正確には対抗要件の履践であろうが)するについての原告教団の承認を求める請求は理由があり、なお本件全証拠によって窺いうる紛争の熾烈さよりすれば、被告教会より原告両名に対する本件土地建物への立入等による占有妨害予防の請求も亦理由があるものといわざるをえない。
三、次に被告教会より原告両名に対する損害賠償請求について判断する。
まず今回の紛争に先行して、いわゆる教団一元化に端を発して、被告石坂の罷免、更に同被告が原告教会の代表役員としてなした原告教団離脱宣言に至る一連の紛争が生起し、原告らと被告石坂との間で深刻な応酬が交されたこと、そしてこの終戦処理が昭和四九年一月二九日になされた裁判上の和解ならびに覚書の形式でなされた本件土地建物払下契約であることは前示争いないとおりである。そして右終戦処理の協議過程で、被告石坂が原告らと袂別すると同時に、払下の建物に拠って創設すること必至の宗教法人の名称が問議されそして決着に至ったのは争点に対する判断一、特にその(一)ないし(四)で示したところである。
そして右にみた経過に本件に顕れたすべての証拠を綜合すると、原告らは意を通じて、正確にいえば、地元にある原告教会が原告教団に上申、懇請し、原告教団がこれを聞知して自らの組織を投入して原告教会を指導しつゝ、みろく神教と称して活動を始めた被告石坂との間に信者や同調者の維持獲得、換言すれば宗教等を中心とする活動における一種の市場占拠競争を開始し、被告教会が設立された後は被告教会およびその主宰者たる被告石坂個人を相手として、現在に至る紛争となっていること、そしてこのような実態であるからには、争点に対する判断一、で示した如くに原告ら主張の諒解事項ないし表示動機の錯誤が肯認できず、ひいて被告らによるみろく神教の名が許容され本件土地建物払下契約の解除意思表示がその効力を生じえない以上、右各点にかかわる紛争の範囲においては、他に特段の事情がみあたらないから、前出終戦処理があったのにかかわらず、右の各点を挙示しこれに依拠した、(1)原告教会の少くとも被告教会に対する建物明渡等請求訴訟の提起、(2)少くとも被告教会が原告両名に対してなした土地建物移転登記手続、占有妨害禁止等請求訴訟における原告両名の応訴抗争、(3)原告教団より被告教会に対してした宗教活動妨害禁止等請求事件の提訴、以上はいずれもその争訟を違法と評価さるべく、また(4)被告石坂が申請名義人となって原告教会を相手方としてした本件土地建物処分禁止仮処分申請、(5)右同様原告両名を相手方としてした本件土地建物の占有妨害禁止等仮処分申請は、いずれも前示移転登記手続、占有妨害禁止請求訴訟を本案とし、かつ本件払下契約におけるいわゆる第三者譲受許容文言があることよりして被告石坂は被告教会の信託機関として右の申請をし、右申請による利益および負担は被告教会に帰すべきであり、結局原告両名が本件解除意思表示をして被告教会をしてこの各仮処分申請をせざるをえない立場に追いこんだことも衡平の観点から社会的相当性を欠く違法との評価を免れえない。そして、右各争訟や申請のうち、前示(3)を除いて、原告両名中の一方のみによる、或いは一方のみに対する事件であっても、本件全証拠によって認めうる原告教団と原告教会との今回の紛争に対処する事実としての一心同体性をみれば、共同しての帰責を免れえないというべきである。前示(3)の提訴追行については原告教団のみに帰責せしめるのが相当である。
以上の認定、判断を超える被告主張は採りえない。
そして前示の範囲における争訟や申請の追行に当り被告教会が法律専門家である弁護士に委任してその助力を要したのは止むをえないものというべく、被告教会はこの弁護士費用として相当額の損害を蒙ったものといいうる。
そして原告両名に対して賠償を求めうる弁護士費用は本件全証拠によって認められる前示範囲の限度での今回の紛争の規模、結果の重大性等に比照して、前示(1)、(2)、(4)、(5)事件の分として金二〇〇万円、前示(3)事件の分として金一〇〇万円をもって各相当となすべく、被告教会に対し、原告両名は各自右二〇〇万円原告教団はこれと別個に単独で一〇〇万円およびこれらに対する本判決言渡の日の翌日たる昭和五一年七月二一日より完済まで年五分の遅延損害金の支払義務があるものというべく、被告教会の原告両名に対する損害賠償金請求を右の限度で認容しその余を棄却することとする。
四、まとめ
以上の次第であるから、民訴法九三条、九二条、八九条、一九六条を適用のうえ、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 今枝孟 裁判官 那須彰 皆見一夫)
<以下省略>